2000 年発表の第三作「Antiche Impressioni(Ancient Impression)」。内容は、シンセサイザー、ピアノなど、キーボードを中心としたクラシカルなシンフォニック・ロック。前作と異なり、ジャズロック的な音はほとんどない。作風としては、クラシック調であり、悠然と広がりのあるサウンドと明朗なテーマによるスピーディなアンサンブルを切り換えながら、劇的に場面を構成してゆく。緩急や音量変化、切り返しなど、自然な抑揚のある巧みな語り口である。キーボードのプレイは、トニー・バンクスに酷似した波打つような変拍子オスティナートと、センス豊かなストリングスを軽やかに放ちつつ、要所でリック・ウェイクマン的なけれんみあるシンセサイザー、ピアノ・ソロを見せる。ゴージャスなサウンドの使い方を、ちゃんと心得た職人なのだろう。
   三つの大作は、エレキギターのソロやスキャット、コラールをフィーチュアし、SE も用いてドラマティックに展開する。前作のシンセサイザー・シミュレーションもなかなかではあったが、やはりギターはやはり実機のほうがいいようだ。全体に、PAR LINDH の諸作のヘビメタ臭さを弱め、バンクス風味を強めたという感じである。印象に残るようなメロディはないのだが、穏やかな響きをもつクラシカルな和声によるエレガントな演奏から、夢想的で暖かみのある世界観がにじみ出てきており、聴き心地は悪くない。大上段に振りかぶるような、挑戦的なプレイもあるのだが、どちらかといえば、ニューエイジ的な安らぎや癒しがメインだろう。 GENESIS の世界には、「美」に対立するエキセントリックなファクターがあり、そのおかげで、さまざまな聴き方ができた。しかし、残念ながら現代においては、エキセントリシティの表現様式がきわめてマンガ的な邪悪/耽美/ゴシック趣味に画一化されたおかげで、「美」に太刀打ちできるだけの幅や弾力がなくなり、一方「美」の方も対抗馬がいないせいで、きわめて紋切り型のヒーリング調に安住している。何にせよ、徹底的に多彩であることが特徴であったプログレッシヴ・ロックのファンにとっては、拍子抜けすることの多い時代である。さて本作、個人的にはピアノのプレイにかなりの個性を感じた。また、ヴォーカルはイタリア語なのだが、意外にローカル色はない。ドラムスは打ち込みと思われる。そして、「犬」、「羊」と続く SE は意図的?